野村美月『“文学少女”と死にたがりの道化(ピエロ)』を読んだ感想

本レビュー

久しぶりにライトノベルを読みました。

「“文学少女”シリーズ」は2006年にファミ通文庫から刊行されたライトノベルです。長編と短編を含め全16巻。
著者は野村美月さん、イラストは竹岡美穂さん。柔らかく可愛いイラストが印象的です。

この作品は実在する文学小説が登場し、それに沿って物語が進行していきます。

この「死にたがりの道化」はシリーズの第1巻。

以降もシリーズには「“文学少女”」がタイトルに含まれます。

アニメ化・マンガ化もされ、ライトノベルのガイドブックである「このライトノベルがすごい!」に何度もノミネートされた人気作です。

ですが、私は未読だったので、今回初めて手にとって読んでみました。

※今回の記事はネタばれを少し含みます。作品を未読の方はご注意ください。

Amazon.co.jp: “文学少女“と死にたがりの道化 (ファミ通文庫) : 野村 美月, 竹岡 美穂: 本
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あらすじ/斬新な設定のヒロインとトラウマをかかえた元天才少年

平穏と平凡を愛する普通の高校生「井上心葉(いのうえこのは)」は、物語を”食べちゃうくらい”愛している生粋の文学少女「天野遠子(あまのとおこ)」に出会います。

本を食べるという彼女の秘密を知ってしまった心葉は、強制的に文学部に入部させられてしまいます。

実は心葉は、中学時代に覆面美少女作家として小説家デビューし、作品が大ベストセラーになりました。

しかし、とある事件がきっかけで彼は小説を書くのを辞めてしまいました。

それを知ってか知らずか、遠子は自分が食べることを目的に心葉に小説を書かせます。
しぶしぶ書いていた心葉でしたが、ある日文芸部に竹田千愛(たけだちあ)が恋愛相談に訪れます。

千愛の代わりにラブレターを代筆することになった心葉。

しかし、千愛が思いを寄せている片岡愁二に関する重大な秘密を知り、物語は大きく動き出します。

ストーリーのカギは太宰治の『人間失格』

この作品のカギは太宰治の『人間失格』です。

『人間失格』の文章を元にした手記が何度も登場し、物語を大きく動かしていきます。

しかし、恥ずかしながら私は『人間失格』を読んだことがありませんでした。(2019年10月16日現在)

始めから『人間失格』を題材にしていると知っていたので、それを読んでからこの本を読むということも考えましたが、あえて読みませんでした。

その理由は、「『人間失格』を未読でも楽しめるか?」というちょっとした検証をしてみたかったのです。

『人間失格』を未読の私が読んだ感想

結論から言うと「未読で読んでも楽しめました」

むしろ「未読で良かった」と思いました。

その理由は物語のラストシーン

※以下若干ネタばれがあります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自ら命を絶とうとする「とある人物」に向かって遠子は説得を試みます。

その際に約4ページもかけ、ものすごい勢いで太宰作品を解説します。

『走れメロス』『葉桜と魔笛』『雪の夜の話』『女生徒』『斜陽』などなど。

要約すると
【太宰治は『人間失格』だけじゃない。
それだけを読んで、太宰作品全てが暗い作品なのだと思ってはいけない。
太宰の作品はユーモアあふれるものや胸を熱くするもの、優しくて心温まるものなどたくさんあるので、他の作品を読まずに絶対に死んではいけない】

自殺する人に向かって言っているとは思えない説得です。

しかし、彼女は太宰作品を例にあげ、物事を1つの側面だけで見てはいけないと訴えたのだと思います。

世の中にはまだまだ知らない本があるように、これから新たな出会いがきっとある。
悩みの一つだけで人生は終わらない。広く世界を見渡せば、自分の悩みはとても小さいことが分かる。
生きることで世界を知り、そして自分を知ることができるようになる。

私は『人間失格』を読んではいませんでしたが、なんとなく太宰に対して暗い人物だと想像していました。

しかし、最終的に太宰は自殺という答えを出したが、それだけで太宰を卑屈な人物と見てはいけない、とまるで遠子が私にも訴えてきたような気がしました。

これを読んで太宰治に対するイメージが変わり、いろんな作品を読んでみようと思う様になりました。

まとめ/リレーのように本がつながる

実在する本が登場する作品を読む場合、題材になった本を先に読んでいると、より作品を楽しめると思います。

しかし、以前のビブリア古書堂の感想でも書きましたが、本を読むことでまた新たな本に出会うことができるのです。

バトンを渡すように本のリレーが続いていき、少し世界が広がったような気がしました。

実はこの作品、いろいろある伏線を残したまま次巻に続きます。

まだまだ謎が多い作品ですが完走をめざしたいと思いました。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

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